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病気やケガで仕事を休んだときに手当をもらう|健康保険法「傷病手当金」

この記事は社会保険労務士が監修しています。

病気やケガで労務不能(業務ができない状態)になり、勤め先を休んだときに支給される「傷病(しょうびょう)手当金」について詳しく紹介します。

<この記事のポイント>
◇妊娠悪阻や切迫流産などで休業し、報酬が支払われない場合「傷病手当金」の対象となります。
◇「傷病手当金」の支給対象は、勤め先の健康保険に加入している被保険者本人です。
◇自宅療養も対象となり、原則として1日あたり標準報酬日額(日給)の3分の2が支給されます。

「傷病手当金」は妊娠悪阻や切迫流産などによる休業も支給対象になります

「傷病手当金」とは、おもに「健康保険法」に定められた制度で、勤め先の健康保険に加入している人が業務以外の病気やケガで連続3日以上仕事を休み、十分な報酬が得られなかったとき、4日目以降、休んだ日数分の手当が支給されるものです。
働きながら妊娠・出産を迎える女性の場合、妊娠悪阻や切迫流産、切迫早産、妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群などで医師から療養が必要と診断されたケースなどが対象になります。

制度を利用できる対象者|勤め先の健康保険に加入している人

「傷病手当金」は公的な社会保険制度のなかの「健康保険」から支給される手当金です。以下のような健康保険に加入している被保険者本人(※)が対象となります。

◇健康保険組合(組合健保)
◇全国健康保険協会(協会けんぽ)
◇共済組合・共済制度(国家公務員、地方公務員、私学教職員など)

※正社員、正職員、公務員のほかパートやアルバイト、契約社員、派遣社員などの雇用形態を問わず、本人が健康保険に加入している被保険者であれば傷病手当金の支給対象です。「被保険者の扶養に入っている人」は対象になりません。

なお、原則として自営業者、個人事業主、フリーランス、農業や漁業の従事者、家族従業者などが加入している「国民健康保険」には、傷病手当金制度はありません。ただし、新型コロナウィルス感染症をうけて、国民健康保険加入者に対する傷病手当金を支給している自治体も存在します。

また、医師、歯科医師、食品・飲食業、税理士、土木・建築・建設業、弁護士、薬剤師、理・美容師など、同じ業種・職種に従事する人で組織されている「国民健康保険組合(国保組合)」の場合、各国保組合によって傷病手当金制度の有無や支給要件が異なるので、自身が加入している国保組合に「病気やケガで仕事を休んだとき」という給付項目があるかどうか確認してみましょう。

制度の特徴|支給額はおおむね日給の3分の2

「傷病手当金」について、支給の条件や支給額など、詳しい内容を紹介します。

「傷病手当金」支給の条件

傷病手当金は、次の(1)〜(4)に挙げた条件をすべて満たした場合に支給されます。

(1)業務外の病気やケガによる療養であること
業務上・通勤災害による病気やケガは「労災保険」の給付対象となり、傷病手当金の対象にはなりません。
病気やケガの療養であればその診療が保険診療か自由診療かは問いませんが、病気と見なされない美容整形などは対象外となります。

(2)業務に就くことができないこと
療養担当者(医師など)が「労務不能」とした意見を基に、被保険者本人の業務内容に鑑みて各健康保険の保険者(運営者)が判断します。

(3)連続する3日間を含み4日以上業務に就けなかったこと
療養のために連続3日間仕事を休んだあと(待期3日間)、4日目以降の業務に就けなかった日に対して支給されます。連続3日間の待期期間には土・日・祝日や有給休暇も含みます。

(4)休業した期間に勤め先から報酬の支払いがないこと
病気やケガで仕事を休んでいても、勤め先の制度や有給休暇の利用などで報酬が支払われた日については傷病手当が支給されません。ただし、支払われている報酬の額が傷病手当金の額より少ない場合は、その差額が支給されます。

「傷病手当金」の支給額

支給開始日以前の継続した12か月間の各月標準報酬月額(※1)を平均した額÷30日を「標準報酬日額」とし、標準報酬日額の3分の2にあたる額が、傷病手当金1日あたりの支給額となります(※2)。

たとえば標準報酬月額が30万円だった場合、標準報酬日額は1万円。傷病手当金1日あたりの額は1万円の3分の2=6667円になります。

また、勤続年数が1年に満たない場合など、傷病手当金の支給開始日以前に標準報酬月額が定められている月が12か月ない場合があり得ます。その場合には、次のいずれか少ない額の30分の1に相当する額の3分の2が支給されます。

  • 支給開始日以前の継続した標準報酬月額を平均した額
  • 30万円

※1 標準報酬月額には、基本給のほか残業代、役職手当、通勤手当(通勤交通費)、住宅手当、家族手当などが含まれます。年3回以下の賞与や臨時の手当・祝い金などは除きます。
※2 国家・地方公務員共済は標準報酬月額を平均した額÷22日×3分の2、私学共済は標準報酬月額を平均した額÷22日×100分の80

制度を利用できる期間|支給開始日から「通算」で1年6か月

「健康保険法」の改正により、2022年1月1日以降、「傷病手当金」が支給される期間は「支給開始日から『通算』1年6か月」になっています(支給開始日が2020年7月1日以前の場合は従来どおり「支給開始日から『最長』1年6か月」です)。
休業の途中で業務に就けた日数を除き、合計で1年6か月分受給することが可能です。

次の条件を満たせば、健康保険の資格喪失(退職)後も通算1年6か月までは傷病手当金の継続給付を受けることができます。

【継続給付の条件】
(1)加入している健康保険の資格喪失日の前日(退職日)までに、継続して1年以上被保険者(任意継続被保険者であった期間を除く)だったこと
(2)資格喪失日の前日(退職日)の時点で現に傷病手当金を受給していること、または資格喪失日の前日(退職日)までに連続3日以上休業して傷病手当金受給の条件を満たし、退職日も休業していること

働きながら妊娠・出産に臨む女性が継続給付の条件(1)を満たしている場合、たとえば「妊娠初期に体調不良で労務不能の診断を受け、傷病手当金を受給しながら休業していたものの、体調が戻らずそのまま退職した」というケースなどは、継続給付の対象となります。

制度を利用する際の注意ポイント|傷病手当金と出産手当金の関係

傷病手当金と出産手当金は両方とも、就労不能で十分な報酬が得られないときの所得保障として「健康保険」制度から支給される手当金で、1日あたりの支給額の算出方法も同じです。そのため、たとえば妊娠中、医師に労務不能と判断されて療養に入り、その時期が出産手当金の支給時期と重なる場合はどちらか一方の支給となり、出産手当金が優先されます。ただし出産手当金よりも傷病手当金のほうが多い場合、その差額が支給されます。

ちなみに出産手当金は、産前(出産日※以前42日|多胎の場合は98日)から出産の翌日以降56日目までの範囲内で休業し、報酬が支払われなかった日について支給されます。
※出産が予定日後のときは出産予定日

また出産手当金も、傷病手当金と同じ要件で継続給付を受けることが可能です。

制度を利用するための手続き|各健康保険の保険者に申請

「傷病手当金」は自動的に支給されるものではなく、勤め先で加入している健康保険の保険者(運営者)に申請する必要があります。

【傷病手当金申請の大まかな流れ】
①「傷病手当金支給申請書」を入手
※公式サイトからダウンロード可能な保険者もあります
②被保険者が「被保険者記入欄」に記入
③療養担当者(医師など)に「療養担当者記入欄」を記入してもらう
④事業主(人事労務担当部門など)が「事業主記入欄」に記入
⑤添付書類とともに保険者に提出し支給申請
※その後各保険者による審査があり、支給の可否が決まります。

傷病手当金は将来的な見込みではなく、過去の労務不能だった日(期間)について支給されるものです。事業主が勤務状況や報酬の支払い状況などを記入・証明する必要があるため、被保険者と療養担当者が記入後、事業主から保険者に提出するケースもあります。

【申請期限】
「労務不能で業務に就かなかった日」ごとに、その翌日から2年以内が申請期限となります。

おしえて!FAQ

健康保険の「傷病手当金」制度について、多く寄せられている疑問点と回答について紹介します。

Q1 入院はせず、自宅療養でも「傷病手当金」支給の対象になるのでしょうか?

A 自宅療養も支給の対象になります。入院の有無に関わらず、医師が労務不能と認め、3日以上連続して就労することができなかった場合は、4日目以降の休業が「傷病手当金」支給の対象となります。

Q2 「育児休業給付金」受給中の病気やケガも「傷病手当金」支給の対象になりますか?

A 支給の対象になります。
「育児休業給付金」は、働きながら出産・育児に臨むママやパパが安心して育児休業を取得するために「雇用保険」制度から支給されるものです。一方「傷病手当金」は、紹介のとおり「健康保険」制度から支給されるものです。このふたつはまったく別の制度で支給の主旨も異なるため、育児休業を取得し育児休業給付金の受給中でも、傷病手当金の要件を満たした場合は、同時に受給することができます。また、同時に受給してもどちらかの金額が減額されることはないとされています。

Q3 「雇用保険」にも「傷病手当」があります。健康保険の「傷病手当金」との違いは?

A 「雇用保険」の「傷病手当」は、離職後の就職活動を支援する「求職者のための給付金」です。ハローワークで基本手当(いわゆる失業保険、失業手当)受給の手続きをしたあと、病気やケガのために引き続き15日以上仕事探しや就職ができなくなったとき、基本手当の代わりに支給されます。
なお基本手当とは「すぐに働ける状態で積極的に就職活動をしているにもかかわらず就職できていない状態」のときに支給されるものであり、妊娠中、または出産後の健康状態の悪化により離職せざるを得なくなったケースでこうした条件にはあてはまらない場合、基本手当の支給対象にはなりません。

ただし、健康状態や育児が落ち着いたあとにあらためて就職活動をしたいと考えているケースでは、原則として離職日の翌日から1年以内とされている基本手当の受給期間を、最長4年以内まで延長することができます。

雇用保険「基本手当」受給期間延長についての詳細は、以下の記事を参照してください。
失業保険の給付を先延ばしにしてもらう|雇用保険「基本手当」の受給期間延長

適用される法律|健康保険法

今回紹介した「傷病手当金」について定められた法律は以下のとおりです。

  • ◇健康保険法
    • (傷病手当金)第99条
    • (出産手当金)第102条
    • (出産手当金と傷病手当金との調整)第103条
    • (傷病手当金又は出産手当金の継続給付)第104条
    • (傷病手当金又は出産手当金と報酬等との調整)第108条

健康保険法「傷病手当金」の関連情報

この制度や妊娠・出産・育児中の法律などについて詳しく知りたい場合は、以下の情報も確認してみてください。

働く女性の心とからだの応援サイト
※働きながら妊娠・出産・育児に臨む女性にとって大切な法律や制度、措置などがまとめられています。

※本コラムは、令和5年4月1日時点の法律に基づいています。お手続きなどの詳細につきましては、会社のご担当者様にご確認ください。