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失業保険の給付を先延ばしにしてもらう|雇用保険「基本手当」の受給期間延長

この記事は社会保険労務士が監修しています。

妊娠・出産・育児のために離職した人が失業保険の受給を最長4年以内まで延長できる「受給期間延長制度」について紹介します。

<この記事のポイント>
◇妊娠、出産、育児で離職し、すぐに働けない場合、申請すれば基本手当の受給期間を延長できます。
◇基本手当の給付額や給付日数は、雇用保険の被保険者だった期間や離職時の賃金などによって異なります。
◇基本手当の受給延長申請は、自らの居住地を管轄する公共職業安定所(ハローワーク)で行います。

働けない状態が30日以上続いた場合、失業保険の受給期間を延長することができます

一般的に「失業保険」「失業手当」「失業給付」などと呼ばれる給付金の正式名称は、「(雇用保険の)基本手当」といいます。
基本手当は、倒産や解雇、契約期間満了、自己都合など、何らかの事情で離職した人が、離職によって収入がなくなった後も、生活の心配をせずに新しい仕事を探し、1日も早く再就職するために支給される「求職者給付」のひとつです。

「健康状態や環境を含めすぐに働ける状況で、就職したいという積極的な意思があって求職活動を行っているにもかかわらず、就職できない場合」に給付されるのが「基本手当」なので、妊娠や出産、育児などで一定期間働けない、または求職活動をしにくい状況が見込まれる場合は給付の対象になりません。

ただし、その状況が落ち着いたらあらためて求職(就職)活動を始めたいと考えている場合は、原則として離職日の翌日から1年以内とされている基本手当の受給期間を、最長4年以内まで延長することができます。

制度を利用できる対象者|雇用保険の被保険者で妊娠・出産・育児のために離職した人

雇用保険の基本手当を受給できるのは、原則として離職した日以前の2年間に、雇用保険の被保険者だった期間が通算12か月以上ある人です(※1)。
ただし、倒産や解雇など会社側の都合で離職した「特定受給資格者(※2)」や、期間に定めのある労働契約が更新されなかったことや家庭事情の急変など、やむを得ない理由で離職した「特定理由離職者(※3)」は、離職前の1年間に被保険者だった期間が通算6か月以上あれば受給できるケースがあります。

「妊娠や出産、育児(3歳未満)(※4)のために離職し、受給期間の延長措置を受けた人」は「特定理由離職者」にあたり、離職前の1年間に被保険者だった期間が通算6か月以上あれば受給の資格があるとされています。

※1 過去に、再就職手当などを含む基本手当や、特例一時金を受給したことがある場合は被保険者期間がリセットされ、受給後の被保険者期間のみが算定対象となります。
※2、3 「特定受給資格者」「特定理由離職者」の詳細については以下のサイトを参照してください。
ハローワークインターネットサービス|特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要

※4 育児を理由とした受給期間の延長が可能なのは子が3歳未満の場合のみです。

制度を利用できる期間|本来の受給期間1年+3年の最長4年

本来、雇用保険の基本手当を受給することができる期間は、離職した日の翌日から1年間と決められています。これを「受給期間」といいますが、妊娠・出産・育児のために離職し、その後1年の受給期間中に継続して30日以上働けない時期がある場合は、受給期間の延長が認められています。

本来の受給期間である1年に、「働けない時期」として加えることができる期間は最大3年。つまり離職した日の翌日から最長4年以内までは受給期間を先延ばしにでき、働ける状態になった時点で受給手続きをすれば、基本手当の給付を受けながら求職活動を始めることができるのです。

制度を利用する際の注意ポイント|「基本手当日額」「給付日数」「受給期間」の違い

基本手当の「基本手当日額」や「給付日数」は、雇用保険の被保険者であった期間や離職理由、離職時の年齢、離職前の賃金などによって異なります。ここではそれらの算出ルールや「給付日数」と「受給期間」の違いなどを詳しく紹介します。

「基本手当日額」とは

基本手当の「基本手当日額」とは、雇用保険で受給できる1日あたりの金額のことです。
基本手当日額は、離職の直前6か月間に毎月支払われた給与(※1)から割り出される「賃金日額」と離職時の年齢、給付率によって決まります。
おおよその計算式は(離職前6か月の給与の総支給額)÷180×給付率です。
給付率は離職時の年齢や賃金によって45パーセントから80パーセントとなっていて、賃金が低い方が給付率は高く設定されています。

基本手当日額は年齢区分ごとに次のような上限額(※2)が定められています。なお下限額は年齢を問わず一律2125円です。

◇離職時の年齢→基本手当日額の上限額(2022年8月1日現在)
●30歳未満→6835円
●30歳以上45歳未満→7595円
●45歳以上60歳未満→8355円
●60歳以上65歳未満→7177円
※1 残業代、通勤手当、家族手当、住宅手当などは含み、賞与や臨時の手当、祝い金などは除きます。
※2 基本手当日額の上限額と下限額は「毎月勤労統計」の平均定期給与額により、毎年8月1日に改定されます。
詳細は以下のサイトを参照してください。
ハローワークインターネットサービス|基本手当について

正確な基本手当日額は受給申請後に算出されますが、厚生労働省の試算によれば、求職期間中の1か月あたりに給付される基本手当はおおむね次のようになるとされています。

◇離職前の月額平均給与→1か月あたりの基本手当受給額の目安
●平均して月額15 万円程度の場合→支給額は月額11万円程度
●平均して月額20 万円程度の場合→支給額は月額13.5万円程度
●平均して月額30 万円程度の場合→支給額は月額16.5万円程度

※詳細は以下のサイトを参照してください。
厚生労働省|雇用保険制度 Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~

基本手当の「給付日数」とは

基本手当の「給付日数」とは、求職中に「最大何日分の基本手当が支給されるか」を示すものです。
「給付日数」は、雇用保険の被保険者であった期間や離職理由、離職時の年齢などによって決まります。

「妊娠や出産、育児のために離職し、受給期間の延長措置を受けた人」の給付日数は以下のとおりです。
◇被保険者であった期間→所定の給付日数
●10年未満→90日
●10年以上20年未満→120日
●20年以上→150日

※倒産や解雇など会社都合による離職(「特定受給離職者」)や障害者などの「就職困難者」は、給付の条件や給付日数が異なります。
詳細は以下を参照してください。
ハローワークインターネットサービス|基本手当の所定給付日数|特定受給資格者及び一部の特定理由離職者(※補足1)(3. 就職困難者を除く)

基本手当の「受給期間」とは

基本手当の「受給期間」とは、「基本手当を受給できる権利の有効期限」を示すものです。
妊娠、出産、育児のために離職し、受給期間の延長措置を受けた場合、最長で4年後の期間満了日までは、上で紹介した給付日数分以内の基本手当を受給することができます。

注意が必要なのは、求職中で所定の給付日数が残っていたとしても、4年後の期間満了日がきたらそれ以降は受給することができない、という点です。

出産や育児などの状況が一段落し、あらためて求職活動を始める場合、所定の給付日数が90日なら遅くとも受給期間満了日の3か月前、120日あるとしたら4か月前までには受給が始まるよう、余裕を持って延長の解除手続きを済ませておく必要があります。

制度を利用するための手続き|必要書類を揃え、ハローワークへ

基本手当の延長申請を行うために必要な書類や申請の方法、申請期限について紹介します。

受給期間延長申請の必要書類

基本手当の受給期間延長を申請する際は、以下の書類が必要になります。

◇受給期間延長申請書
※申請書はハローワークの窓口、または郵送にて入手できます。
◇離職票−2
※勤務していた事業所から交付される書類です。
※複数枚の離職票がある場合、短期間の離職票であってもすべて提出する必要があります。
※延長申請のみの場合、「離職票−1」は不要です。
◇延長の理由を証明する書類
※妊娠、出産、育児の場合、母子健康手帳や医師の診断書などが該当します。

受給期間延長の申請方法

必要書類を持参し、自らが居住する地域を管轄するハローワークにて申請します。
受給期間延長申請は郵送、または代理人による申請も可能です。代理人による申請の場合、代理人の本人確認書類と委任状が必要です。委任状については、延長申請書と同様、ハローワークにお問い合わせください。

受給期間延長の申請期限

受給期間延長申請は、妊娠や出産、育児などのために引き続き30日以上継続して働けなくなった日(または離職した日の翌日から30日経過した日)の翌日以降、早めに行うことが推奨されています。
制度上は「延長後の受給期間の最後の日まで申請可能」とされていますが、申請が遅くなると受給期間を延長しても基本手当の所定給付日数のすべてを受給できない可能性があるので注意が必要です。

おしえて!FAQ

雇用保険における基本手当の受給延長について、多く寄せられている疑問点と回答について紹介します。

Q1 求職活動を始めても仕事がなかなか見つからない場合、家計の足しに内職やアルバイトなどをしたいのですが、基本手当はもらえなくなるのでしょうか?

A 「週の就労日が4日以上かつ週20時間以上労働している」など、一定の条件で就労が継続している場合は、実際に仕事をしていない日があっても「就職」している期間とみなされ、基本手当を受給することはできません。
「就職」とはみなされない内職や在宅ワーク、アルバイトであれば受給の手続きは可能ですが、仕事をした日は基本手当の支給対象にならなかったり、減額されたりする場合があります。
いずれにしても、基本手当の受給中に何らかの収入を得た場合は、その額にかかわらずハローワークに申告する必要があります。申告を忘れると不正受給とみなされるおそれがあるので注意が必要です。

Q2  出産を機に退職し、失業保険の延長申請をした後に夫の扶養に入ったのですが、扶養に入った後でも失業保険はもらえるのでしょうか?

A 配偶者などの扶養家族であっても、将来的に延長の解除を行い、積極的に求職する気持ちがあれば雇用保険(基本手当)の受給は可能です。
ただし、受給額によっては社会保険における扶養の条件からはずれるケースもあるので、配偶者などの加入している健康保険の窓口や勤務先の福利厚生担当部署などにあらかじめ確認しておくといいでしょう。

Q3 受給期間の延長を解除するためにはどうすればよいですか?

A 自らが居住する地域を管轄するハローワークで延長解除の手続きをしましょう。「雇用保険(基本手当)の受給手続きを行わずに延長した場合」と「雇用保険(基本手当)を受給中に延長した場合」で、延長解除に必要な書類が異なります。詳細は、以下を参照してください。

受給期間の延長をしていたのですが、病気などが治り働ける状況になったのですが、どうしたらいいでしょうか|雇用保険制度質問一覧Q17|厚生労働省

適用される法律|雇用保険法

今回紹介した「妊娠、出産、育児などによる受給期間延長制度」について定められた法律は以下のとおりです。

  • ◇雇用保険法
    (支給の期間及び日数)第20条

雇用保険|「基本手当の受給期間延長制度」の関連情報

この制度についてもっと詳しく知りたい場合は、以下の情報も確認してみてください。

厚生労働省サイト|労働者の皆様へ(雇用保険給付について)

ハローワークインターネットサービス

※本コラムは、令和5年4月1日時点の法律に基づいています。お手続きなどの詳細につきましては、会社のご担当者様にご確認ください。