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時差通勤や休憩の延長を認めてもらう|妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置

この記事は社会保険労務士が監修しています。

働く女性が妊娠中、および出産後の大切な期間を安心して過ごせるようサポートする「母性健康管理措置」について紹介します。

<この記事のポイント>
◇事業主は、働く妊産婦が医師からの指導を守れるよう対策する義務があります。
◇対策の具体例には、通勤の緩和、休憩の延長、仕事内容の転換などがあります。
◇医師の指導内容を的確に伝えるためのツールとして「母健連絡カード」があります。

医師の指導を受けた場合、事業主に母性健康管理措置を講じてもらうことができます

産前産後にはさまざまな体調の変化があります。働きながら妊娠・出産を迎える女性が、保健指導や健康診査などの結果、医師や助産師から何らかの指導を受けた場合、事業主に申し出れば、その指導に基づいた対策をとってもらうことができます。

これを「母性健康管理措置(母性健康管理制度)」といい、男女雇用機会均等法(※1)の第13条で、「事業主は、その雇用する女性労働者が保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするため、勤務時間の変更、勤務の軽減等必要な措置を講じなければならない。」と定められています。
また、「必要な措置」については、厚生労働省による指針(※2)に詳細がまとめられています。

医師や助産師から受けた指導を事業主に正確に伝えるためのツール「母性健康管理指導事項連絡カード」などを活用し、母体や胎児の健康を守りましょう。

※1 正式名称:「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」
※2 正式名称:「妊娠中及び出産後の女性労働者が保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針」

制度を利用できる対象者・対象期間|妊娠中〜産後1年以内の女性労働者

母性健康管理措置は、働きながら妊娠・出産を迎える女性と胎児の健康に直接的、かつ重大な影響をあたえるものです。そのため、正社員だけでなくパート、アルバイト、契約社員、派遣労働者など、すべての雇用形態で働く女性がこの措置の対象となります。派遣労働者については、派遣元事業主と派遣先事業主の両方に措置を講じる義務があります。

母性健康管理措置の対象となる期間は「妊娠中および出産後1年を経過していない女性労働者」とされています。

制度の特徴|通勤緩和、休憩時間延長、負担軽減などの措置を受けられます

医師や助産師の指導に基づいて、事業主が対応するよう求められている具体的な措置としては、次の(1)から(3)の項目があります。

(1)妊娠中の通勤緩和

朝夕の通勤時、電車やバスの混雑による苦痛やストレスは、つわりの悪化や流産・早産などにつながるリスクがあります。そのため健康診査などで医師や助産師から「通勤緩和の指導」があった場合、本人から事業主に申し出ることによって、混雑する時間帯や経路を避けて通勤するための措置を受けることができます。公共交通機関による通勤のほか、自家用車による通勤も、緩和措置の対象となります。

【通勤緩和の具体的な例】
◇始業時間と終業時間を、それぞれ30〜60分程度前後にずらす時差通勤の適用
◇フレックスタイム制度の適用
◇1日30〜60分程度、就業時間を短縮する
◇混雑の少ない交通手段、通勤経路への変更 など

(2)妊娠中の休憩に関する措置

つわりや全身の倦怠感、めまいや立ちくらみ、むくみ、腰痛などの症状で、医師や助産師から「休憩に関する指導」があった場合は、本人の申し出に基づき、休憩時間を長くしたり、休憩の回数を増やしたりする措置を受けることができます。

【休憩に関する措置の具体的な例】
◇休憩時間の延長
◇休憩回数の増加
◇休憩時間帯の変更 など

一人ひとりの健康状態や仕事内容によって、必要となる休憩のスタイルや回数は異なります。
あらためて休憩場所を設ける場合は「妊娠中の女性が横になって休める休憩室が望ましい」とされていますが、フロア(部屋)の一部を休憩用のスペースとして利用する場合はパーティションを立てて長椅子を置く、立ち仕事の場合はすぐそばにいつでも座れる椅子を置くなど、状況に応じて適宜「休憩がとりやすい工夫」をすることが求められています。

(3)妊娠中または出産後の症状等に対応する措置

働きながら出産を迎える女性が、妊娠中や出産後に現れるさまざまな症状について医師や助産師から指導を受け、事業主に申し出た場合は、その指導を守れるよう作業内容を見直すなどの措置を受けられます。

【産前産後の症状に対応する措置の具体的な例】
◇作業の制限
妊娠中また産後1年以内の女性が次のような負担の大きい作業に従事している場合は、たとえば座り作業やデスクワーク、負荷の軽い作業への転換など、負担の軽減をおこなうことが求められています。

  • (1)重量物を取り扱う作業
    継続作業6~8キログラム以上
    断続作業10キログラム以上
  • (2)外勤など連続的歩行を強制される作業
  • (3)常時、全身の運動をともなう作業
  • (4)ひんぱんに階段の昇降をともなう作業
  • (5)腹部を圧迫するなど不自然な姿勢を強制される作業
  • (6)全身の振動をともなう作業 など

◇就業時間の短縮
つわり、貧血、むくみ、産後の回復不全などの症状に対応するため、1日1時間程度の就業時間短縮

◇休業
切迫流産や産後うつ、回復不全などの症状に対応するため、症状が軽減するまで休業

◇作業環境の変更
つわりなどの症状に対応するため、匂いが気になる環境、換気が難しい環境から異動させる など

制度を利用するための手続き|「母健連絡カード」を活用しましょう

「母健連絡カード(母性健康管理指導連絡カード)」とは、医師や助産師からの指導事項を事業主(会社側、会社の担当者)にしっかりと伝えるため、男女雇用機会均等法に基づいて厚生労働省が定めた連絡様式です。

母健連絡カードの利用方法

妊娠中、また出産後の健康診査などの機会に、気になる症状や不安があれば、どんな小さなことでも医師や助産師に相談しましょう。その際、自身の仕事内容や労働時間、労働環境、通勤の状況などもあわせて伝えます。診察の結果、措置が必要と判断されたら、母健連絡カードに記入してもらい、会社へ提出します。

◇母健連絡カードの使い方

(1)妊娠中や出産後に健康診査などを受診します。
(2)主治医や助産師が健康診査の結果、何らかの措置が必要であると判断した場合、母健連絡カードに記載して本人に渡します。
(3)本人から事業主に母健連絡カードを提出し、必要な措置を申し出ます。
(4)事業主は母健連絡カードの記載に応じ、通勤緩和や就業時間の短縮、休憩時間の延長、作業内容の見直しなど、男女雇用機会均等法第13条に基づく適切な措置を講じる義務があります。

画像出典:「母健連絡カード」(母性健康管理指導事項連絡カード)について|妊娠出産・母性健康管理サポート

母健連絡カードの入手方法

母健連絡カードは以下のURLや厚生労働省のホームページなどでダウンロードできるほか、ほとんどの母子健康手帳にも様式が記載されているので、それをコピーして使うこともできます。

制度を利用する際の注意ポイント|母健連絡カードがなくても措置は受けられます

男女雇用機会均等法第13条に基づく指針では、医師や助産による具体的な指導がない場合でも、妊娠中及び出産後の女性労働者から申し出があったときは担当の医師や助産師と連絡をとって判断を求めるなど、適切な対応をはかる必要があるとしています。

また母健連絡カードの提出は必須ではなく、女性労働者本人の申し出などから医師や助産師からの指導内容が明確であれば、事業主は必要な措置を講ずる必要があるとされています。

いずれにしても母性健康管理措置は本人からの申し出によって利用できる制度なので、スムーズに利用するためには、以下の点にも留意し、周囲からの理解を得られるよう努めることも大切です。
◇出産予定日や産前産後休業や育児休業の予定を早めに会社に伝えておくこと
◇妊娠・出産に関する会社の規定、相談できる健康管理部門や産業医について確認しておくこと
◇上司や同僚との連絡を密にとり、業務の引き継ぎなどを確実におこなうこと

おしえて!FAQ

母性健康管理措置や母健連絡カードについて、多く寄せられている疑問点と回答について紹介します。

Q1 会社の就業規則に「母性健康管理措置」に関する項目がありません。就業規則に記載されていなくても制度は利用できるのでしょうか?

A 利用できます。母性健康管理の措置は、男女雇用機会均等法第13条とそれに基づいた指針に定められた「事業主の義務」です。妊娠中または出産後の症状などに対応するための措置は就業規則に記載がなくても利用できるので、会社に申し出ましょう。

Q2  切迫早産で主治医から自宅療養の指示があり、会社に母健連絡カードで休業申請をしたのですが、カードではなく診断書を提出するよういわれました。診断書を書いてもらう必要がありますか?

A その必要はありません。母健連絡カードは一般の傷病の診断書と同等に取り扱われるものです。事業主は母健連絡カードの記入事項に従って適切な措置をとるよう定められているので、この場合、診断書がなくても母健連絡カードで自宅療養が認められるべきと判断されます。

Q3 上司に理解がなく、妊娠による体調不良や制度の利用を言い出しにくい場合、また適切な措置をしてもらえない場合などは、どこに相談すればいいでしょうか?

A まずは会社の健康管理部門や機会均等推進者、産業医や保健師などに相談を。会社にそのような体制がない場合は、事業所の所在地を管轄する都道府県労働局雇用環境・均等部(均等室)に相談しましょう。

適用される法律|男女雇用機会均等法

今回紹介した「母性健康管理措置」について定められた法律、および指針は以下のとおりです。

  • ◇男女雇用機会均等法
    正式名称:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律
    (妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置)第13条
  • ◇妊娠中及び出産後の女性労働者が保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針

母性健康管理措置の関連情報

この制度についてもっと詳しく知りたい場合は、以下の情報も確認してみてください。

働く女性の心とからだの応援サイト

厚生労働省|男女雇用機会均等法関係資料

※本コラムは、令和5年4月1日時点の法律に基づいています。お手続きなどの詳細につきましては、会社のご担当者様にご確認ください。